メールマガジン2019年10月
メールマガジン「人事・総務レポート」
2019年10月 Vol.129
1.人事・総務ニュース
「特別休暇削減」を厳しく指導 ~改正労基法の年休取得促進で~
厚生労働省は、今年4月施行の改正労基法による「年5日の年休の確実な取得」に関連し、不適切な行為が広がらないように指導・注意喚起を強化しています。
改正法39条7項では、年休付与日数10日以上の労働者に対して、使用者は年間5日の時季指定をしなければならないと定めています。同項は、30万円以下の罰則付きの規定です。
しかし、この改正法施行後に問題視されているのが、同規定を実質的に無意味にする不適切な取扱いです。具体的には、時季指定については法律どおりに履行する一方で、年間の休日日数を減少させて、従来どおりの労働日数を維持しようとするものです。
事例としては、使用者が独自に定めていた特別休暇を解消し、労働日に変更したうえで、年休の時季指定を取るというパターンがあります。厚労省の改正労基法Q&Aでは、こうした取扱いについて詳細な解釈を示しています(認められる場合とそうでない場合)。
労基署には、関連する相談が労働者から寄せられていることから、厚労省では改めて注意を喚起し、法改正の趣旨徹底に努めていくとしています。
76社で「ドナー休暇」導入 ~骨髄バンクは手引き作成へ~
公益財団法人日本骨髄バンクによると、ドナー休暇の導入企業は昨年末時点で346社でしたが、今年に入って一気に76社増え、422社に達しています(8月15日時点)。社会的背景としては、競泳の池江里佳子選手の白血病公表の影響も指摘されるところです。
㈱ノパレーゼは有給で最大10日間の有給休暇を取得可能とし、㈱宮崎太陽銀行は採取にかかった日数分の特別休暇を付与します。㈱東邦銀行は、失効した年休を120日分まで保存できる「積立特別休暇制度」を活用しています。
骨髄バンクは、今年度、専任担当者を設けて導入促進に向けた企業訪問を強化中で、専用のパンフレットも作成しました。
今後、大企業1万社を対象にアンケートを実施し、「導入マニュアル」を作成する予定です。
全国平均900円台乗せ! ~令和元年・地域別最賃の答申~
令和元年の地域別最低賃金の答申が、全国の都道府県(地方最低賃金審議会)で出揃いました。引上げ幅の全国平均は27円で、901円台に達しました。
引上げ幅27円は前年度より1円高く、最賃の「目安制度」が始まって以降で最大です。アップ率は3.09%(前年度3.07%)で、3%を超えるのは4年連続となっています。
東京都(1013円)と神奈川(1011円)では、初めて時給額が1000円を突破しました。一方で、最高額の東京に対する最低額790円(鹿児島など15県)の金額差は223円となり、16年ぶりに格差が改善されています。
地方最低賃金審議会は、中央最低賃金審議会が先に示した「目安」を参考としながら引上げ幅を答申しますが、今回、目安を上回る答申をしたのは東北や九州を中心に16県に上りました。
2.職場でありがちなトラブル事情
反抗的態度と解雇される ~背景に「専横的」な経営風土~
経理担当のAさんは菓子メーカーで8年弱働いていましたが、その間に、社長・専務の「逆鱗」に触れて解雇された従業員は10人に及んでいました。
ある日、とうとうAさんの身にも火の粉が降りかかってきました。「上司・他の従業員とのコミュニケーションが図れない」という理由で、30日前の解雇予告を受けたのです。
重病の母親の看病のため、生活が苦しいなどと社長に苦境を訴えましたが、「そんなことは知ったことではない」と一蹴されてしまいました。
あまりに専横的な態度に業を煮やしたAさんは、1年分の生活費相当額の補償金の支払いを求めて、あっせんの申請を行いました。
従業員の言い分
会社が主張する「協調性に欠ける」等の理由は事実無根です。この会社では、社長・専務の気分次第で、以前から「ムリが通れば、道理が引っ込む」的な処分がまかり通ってきました。
社内風土が変わらないのであれば、職場復帰しても意味がありません。解雇撤回について争う気はなく、精神的な傷を負ったことに対する慰謝料的な意味も含め、生活費補償と社長の謝罪を要求します。金額には、それほどこだわる気持ちはありません。
事業主の言い分
Aさんについては、上司に対して反抗的な態度を取るなど職場環境を悪化させていたほか、来客の評判も悪かったため、解雇したまでの話です。
当方に落ち度はないと考えているため、金銭の支払いはもちろん、謝罪等の問題についいても譲歩する気はさらさらありません。
指導・助言の内容
事業主サイドはあっせん手続き自体には応じたものの、妥協する気は一切ないと強硬な姿勢を崩しませんでした。このため、正当な理由のない解雇は権利の濫用と判断される場合が多いなど過去の裁判例を引用しつつ、説得に努めました。
最終的には和解金等の交渉に移り、あっせん委員が「紛争の経緯から賃金3カ月分の請求が妥当」などと世間相場を提示したこともあり、労使双方による歩み寄りが実現しました。
結果
事業主がAさんに対して、和解金として50万円を支払うという内容で、合意文書の作成が行われました。
3.厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」
マタニティ・ハラスメント(妊娠・出産・育休等に対するハラスメント)防止に関する措置義務は、平成29年1月に決定化(改正法の施行)されました。均等法と育介法のそれぞれに関係規定が設けられ、指針で講ずべき措置が定められています。
施行後2年目・秋(平成30年10月1日現在)の段階で、防止対策に取り組んでいる企業割合は68.8%という状況です。規模5000人以上では100%ですが、10~29人規模になると60.2%まで低下します。小規模事業所の事業主さんも、マタハラ問題の深刻さを理解し、対策を急ぐ必要があります。

一方、まだ従業員側もこの問題に対するなじみが薄いせいか、実際に「相談実績・事案あり(過去3年間)」と回答する企業割合は、全体平均(10人以上) で0.7%にとどまっています。しかし、今後はトラブルの増加が見込まれるので、関連知識をマスターした担当者等の育成が望まれるところです。

4.身近な労働法の解説 ~最低賃金(1)~
1.最低賃金とは
賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することによって労働条件の改善を図ることで、労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としているものです(最賃法1条)。
使用者は、労働者に最低賃金額以上を支払わなければなりません(最賃法4条)。 最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」があります。
2.地域別最低賃金
地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費および賃金ならびに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められ、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされています(最賃法9条)。 地域別最低賃金の額は、都道府県ごとに定められています。
3.特定最低賃金
一定の事業・職業に係る最低賃金が決定されることがあります (最賃法15条) 。
4.最低賃金の対象となる賃金(最賃法4条、最賃法施行規則1条)

5.最低賃金の計算
最低賃金額は時間によって定められています(最賃法3条)。 時間以外の賃金については、次のように時間給に換算します(最賃法施行規則2条)。

最低賃金額に達しない賃金の定めは無効とされ、最低賃金と同じ定めとされます(最賃法4条)。
5.実務に役立つQ&A
「専業主夫」は被扶養者のまま? ~妻が育児休業を取得へ~
女性管理職が育児休業に入りますが、日頃は夫が家事専業という役割分担になっていました。妻が育児休業中、収入は雇用保険の給付のみになります。現在、夫は健保の被扶養者ですが、引き続きそのままで問題ないのでしょうか。
被扶養者とは、「被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫および兄弟姉妹であって、主として保険者により生計を維持するもの」をいいます(健保法3条7項1号)。
ご質問の世帯では、女性管理職(被保険者)以外の世帯構成員に収入がない状態ですが、休業により賃金はストップします。
ただし、妻の雇用契約関係は継続しています。この場合、育児休業から復帰すれば標準報酬月額程度の収入が見込まれますし、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。ですから、女性管理職が引き続きこの世帯の「主たる生計維持者」と考えられ、育休中でも配偶者である夫は被扶養者として認められます(年金機構疑義照会)。
6.助成金情報
両立支援等助成金(育児休業等支援コース)
「育休復帰支援プラン」を作成し、プランに基づいて労働者が育児休業を円滑に取得、職場復帰した場合に中小事業主に支給します。
A.育児休業取得時、B.職場復帰時、C.代替要員確保時、D.職場復帰支援の4パターンの助成金があります。対象は中小事業主のみです。
育児休業取得時の助成金は、出産後、連続3カ月以上育休を取得すると申請ができます。職場復帰時の助成金は、育休取得時の助成金を受給後、原職に復帰して6カ月経過すると申請ができます。
1.育休取得時
・「育休復帰支援プラン」により育児休業の取得、職場復帰を支援する措置を実施する旨を、就業規則等で明文化し、労働者に周知している。
・労働者との面談を実施し、面談結果を記録した上で育児の状況や今後の働き方についての希望等を確認のうえ、「育休復帰支援プラン」を作成する。
・「育休復帰支援プラン」に基づき、対象労働者の育児休業開始日の前日までにプランに基づいて業務の引き継ぎを実施させている。
・対象労働者に、3カ月以上の育児休業を取得させる。
2.職場復帰時
・対象労働者の休業中に育休復帰支援プランに基づく措置を実施し、職場の情報・資料の提供を実施する。
・対象労働者の職場復帰前と職場復帰後に、育休取得時にかかる同一の対象労働者に対し、その上司または人事労務担当者が面談を実施し、面談結果を記録する。
・対象労働者を、面談結果を踏まえ原則として原職等に復帰させ、原職等復帰後も引き続き雇用保険の被保険者として6カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用している。

3.代替要員確保時
育児休業取得者の代替要員を確保し、休業取得者を現職等に復帰させた場合に支給
・育児休業取得者の職場復帰前に、育児休業が終了した労働者を原職等に復帰させる旨を就業規則等に規定する。
・対象労働者が3カ月以上の育児休業を取得し、事業主が休業期間中の代替要員を新たに確保する。
・対象労働者を上記規定に基づき原職等に復帰させ、原職等復帰後も引き続き雇用保険の被保険者として6カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用している。

4.職場復帰後支援
育休から復帰後、仕事と育児の両立が特に困難な時期にある労働者のため、以下の制度導入などの支援に取り組み、利用者が出た中小事業主に支給
・育児・介護休業法を上回る「A:子の看護休暇制度」または「B:保育サービス費用補助制度」を導入している。
・対象労働者が1カ月以上の育児休業から復帰した後6カ月以内において、導入した制度の一定の利用実績(A:子の看護休暇制度は20時間以上の取得またはB:保育サービス費用補助制度は3万円以上の補助)がある。

7.コラム ~在留資格認定証明書(COE)取得後の短期滞在からの変更について~
東京入管の対応が変わりました!
在留資格認定証明書(COE)交付後、国内で「短期滞在」から「技術・人文知識・国際業務」などへの変更は、原則として認められなくなりました。
従来、相互査証免除の対象国であるアメリカや香港、シンガポールなどの国籍者は、COEの申請中に「短期滞在」で入国し、COE交付後に国内で変更申請を行い、そのまま就労可能な在留資格が許可されるケースが見られていました。
しかし、この手続きは入管法で正式に認められたものではなく、再度、本国に戻り査証を申請して再入国する手間暇を考慮し、便宜を図って受け付けていたものです。この状況が日常化しており、本来の対応に戻すための取組が行われています。
東京出入国在留管理局では、COE交付後の「短期滞在」からの変更申請があった場合は、その理由等を記した書面を提出し、審査によって申請を受理するかどうかを決定しています。実務上の対応としては、相当な理由がない限り受理は許可されていません。今後、「短期滞在」での入国を予定している企業の方はご注意ください。
なお、東京以外の出入国在留管理局については、ケースバイケースとなっており、その都度、確認が必要な状況となっています。
詳しくはACROSEEDまでお問合せください。